ああ、はい。病んでますが何か?

音楽好き、性格悪し

14 2018

ぼーっと

明日、ライブ形式でのスタジオセッション会
に誘って頂いてたのだけど、調子悪いので
キャンセルさせてもらった。

残念だが。しようがない。。

と、いうか申し訳ない。

作業所では、わたしは
ケンカとかはしてないのだけど、
色々人間関係あるみたいで、行くのが憂鬱に
なってしまっている。

どこに行ってもあることだから、頑張って
行くけど。

自分自身も悪い所は改めないとな。


ぼーっとするけど、横になってると
更にぼーっとなるので、散歩でも
行こうかと思ったが、かなり暑いみたいだな。

12 2018

久しぶりに

理由がないけど、気分が落ち込む。

頭がぼーっとする。

ボンヤリする。

08 2018

ギター弾いてくる



めちゃくちゃ重い。。。

雨が夕方くらいに降らない予報な
のが救い。

セッション上手くいくといいな。

上手くいかなくても楽しめたらいいな。

春と修羅 (きのこ帝国)
Lucky (スーパーカー)
breed (nirvāṇa)
lithium (nirvāṇa)

の4曲やる予定。

わたしは、ギターです。

全てに感謝。
08 2018

七夕なので願い事

さっさと寿命が来て抹消できますように。

じゃあ、今死ねとかいうやつ安心しろ、いつか
わたしもお前も死ぬから。

今とかいうな。焦るな。

一時間も、一年も、微々たる差だ。

いい気味だ。

どんなやつも死ぬし。

どんなモノも消える。

傷も吐き気も、汚物も、美徳も。

この苦しみが早く無へと還りますように。

この幸福が早く無へと還りますように。

涙が出ないようになりますように。

苛々する。
07 2018

マツォーン

明日、スタジオ入って
カバー曲を4曲やるので、
今日一日、ドラムパターン打ち込みと
ギター弾いてた。

下手くそ過ぎて泣けてきた。

練習しなきゃ。

明日、うまく行くといいな。

強打した鼻の付け根の部分が、
タンコブのようになってきた。
06 2018

鼻を強打

台風の低気圧のせいか、めまいがひどくて
顔洗った後、洗面所の角に顔ぶつけて
鼻を強打した。鼻が切れた。

今月、もしかしたらスタジオ二回以上
行くかもだから、節約しなきゃだな。

03 2018

うん

新しいスタッフさんが昨日入って来ていた。

29歳の女性だが、可愛い。。。

人柄も良さそうな感じで、可愛い女性で
見てるだけで癒される。。


だが、もう人間関係が辛くなってるので、
うまい感じで、距離を置く方法を学びます。

稼ぐ為だけじゃなくて、人間関係学んだり、
社会性つけるために、行ってるのだから。


02 2018

脳みその

胸が、、、みぞおちら辺が、苦しい。

今日は、区役所行って、色々支払いして、
作業所いって。ドラムパターン作って。

もう、バイオリズム下降期に入っているのだ。
仕様がない。

鬱ではないが、くるしい。

頭が回らないくせに、悪い思考だけ、
脳みその中でやたらと動き回ってる。
01 2018

アーメン

序章

広い会場は至る所で華やかな社交風景が見受けられ、煌びやかなシャンデリアと優雅な音楽、そして美しいドレス姿の女性たちが花を添えていた。
 大きな窓の外には、この界隈一帯の景色が見下ろせた。夜が深まり星が輝き始めると、それはロマンチックな眺めになり、まるで一枚の絵画のような趣さえ見せるのだった。
 そんな窓外をぼんやり眺めている男がいた。陽気で親しげな集団から一人離れ、グラスを片手に何事か思案している様子。男は憂鬱そうな瞳で景色を眺めていたが、やがてテーブル席へと歩み寄り、腰をおろした。頬杖をつき、浮かない表情で、華麗に踊る人々の姿を横目にため息をつく。
 数分経っただろうか。ずっと身動きしなかった男の表情にふいに変化が見られた。目がキラキラと輝きだし、いまにも小躍りしそうな調子で立ち上がっては座り、立ち上がっては座り、何事かそわそわと様子を伺い始めたのだ。何を見ているのだろう。その視線の先にあったのは、ひとつの真っ白な丸い物体だった。
 ……物体としか言えない。ゴムで出来ているのか、鉄で出来ているのか、あるいは煙で出来ているのか。なんとも表現できないような質感で、真っ白でありながらも奇妙に透き通って見えた。男の数メートル先を浮遊していたその白い球体は、ほどなく彼の元へゆっくりと接近し始めた。その物体に気づくものは他に誰もいなかった。それは人々の頭上フワフワとを揺れながら、男の元へと進み続けた。グラスを手に落ちつかなげに立っていた男は、徐々に近づいてきた物体が、やがて自分のすぐ目の前で動きを止めたのを認めると、こみ上げる喜びを隠しもしなかった。グラスを置き万歳でもしそうなほどに体を揺らしソワソワと白い球体を前に行ったり来たりしはじめる。
 早く手を伸ばしたい。消えてしまう前に。
 優雅にそれぞれの楽しみに耽っていた人々が、何かの合図を聞いたように一斉に男の近くに集まりだした。
 真っ白な物体は半分透けていて、中を覗くと蒼い空と海が見える。うれしくてたまらなかった。手を伸ばすと球体は逃げる様子もなく、宙に浮いたままその場に留まり続けている。男は満面の笑みでそれを掴もうとした。
 誰かが指を鳴らす。
 一瞬にして男の顔がくもり、へたへたとその場に座り込んでしまった。人々は気の毒そうな顔でそれを眺める。ヘラヘラ笑うものもいた。だがその煽るような野次も彼の耳にはまったく届かない。手を伸ばそうとしたから消えてしまった。
 希望。
 蒼い空。
 白い雲。
 手を伸ばそうとするから消えてしまうのだ。
 望まなければいいのに。最初から。
 真っ白な丸い物体の消滅は、男をひどく落胆させたらしく、彼は両手で顔を覆い、しばらくその場で悲観にくれた。そうして力なく立ち上がると、呆然と立ち竦む。近くにいた老婆が肩に手をあて、慰めの言葉をかけてやるが、目は宙を向いたまま何の反応もない。それからトボトボと窓辺へ向かった。カーテンが少しゆれた。男は希望を失ったのだ。人は希望がないと生きていけない。だから、死を選んだ。
 転落死。全身打撲、内臓破裂。
 数分間の虫の息の後、彼は冷たいンクリートの上で心臓の音を止めた。

「印鑑お願いできますか?」
若い快活そうな青年は、腰の低い営業スマイルで結衣に用紙を差し出した。印鑑を押してやると、どうもありがとうございます。とさわやかな声で一礼した。それからドアを開け玄関を出てあと、再び一礼してゆっくりとドアを閉める。一連の動作にはマニュアルでもあるのだろうか。毎回寸分変わらぬ動きだ。
 鍵をかけた後、結衣は荷物を抱えるとリビングへそれを運んだ。何が入っているのだろう? またお母さんからだ。ダンボールをカッターで開け、中を覗いた。インスタントラーメン、カップめんがぎっしり詰まっている。ため息と共にそれを隅へ追いやると、床に寝そべり目を閉じた。体がずっしりと重い。疲労が蓄積された体は、結衣がもう若くないということを必死で訴えかけてきていた。たまの休みだというのに、どこへ行く気力もない。最近は家の中で過ごすこがだいぶ多くなってきている。
 昨日遅くまで飲みすぎたせいか、猛烈な睡魔に襲われ始めた。遠くから選挙カーの演説が聞こえる。
 近くでは道路工事が始まっており、日中はあまりの騒音でうるさくノイローゼ気味になりかけていたが、今日は休みらしく静かで、何も聞こえない。窓から穏やかな風が入り込み、結衣の髪を撫でた。もう送るなとあれほど言ったのに。何度いったら分かるのだろう。
 死なないかしら? なんて。自分の突飛な思考に、思わず笑みがこぼれる。
 死ねばいくらかの保険金が入るだろう。結衣は一人っ子だった。今までつまらないだけで得する事のなかったその境遇から初めて恩恵を受けることが出来るのだ。一千万は入るに違いない。そのお金を元手に中古物件でも買って暮らしたい。猫を飼おう。子供の頃からの夢だった。父親が大の動物嫌いで、小さなウサギを我が家に迎え入れることさえ許してくれなかった。結衣は泣いて頼んだが、代わりに金魚を買い与えてもらうことで我慢させられた。その頑固な父が死ぬ三年前に結衣は家を出て故郷遠く離れた東京で一人暮らしを始めていた。彼も呼んで一緒に暮らそう。もう二十代後半。若くはないのだ。いつまでも安い時給でこき使われるフリーター生活を続け、狭いワンルームで生活していきたくはない。
 結婚。
 結衣はぼんやりと天井を見つめた。まぶたが重い。横に倒しに寝転んで、大きなため息とともにまた目を閉じる。
何度か匂わせたことはあったが、気がついているのかいないのか彼はあいかわらず何も言ってくれない。最近仕事が軌道に乗り始め忙しいらしく、なかなか会うこともで出来ずにいた。
 今日だってうちに来ると言っていたから部屋を片付けて待っていたのに。外面がよくて、周りには評判が良いが、実は気難しくて頑固なところは父によく似ている。そこまでウトウトと考えたところで結衣はしずかに眠りについた。
 しばらくすると携帯がなったが、もうその頃には深く眠り込んだ後だった。
 
 目が覚めると、部屋の中は真っ暗だった。もう夜だ。何時間寝たのだろう。
 電気をつけて時計を見ると10時半をまわっていた。ため息をつくと、携帯を探してメールをチェックした。
 三件。
 テレビをつけると毎週欠かさず見てたドラマは、もう終わりかけていた。ついてないなぁ結衣はひとりごちた。今日は最終回なのに。しかし録画していたことを思い出し安堵した。迷ったけど予約していてよかった。
 携帯をもう一度開いてメールを見る。彼からは一件も入っていない。こちらから出すのは癪なので、そのままにしておく事にしよう。落胆したが、そういうことで一喜一憂してしまう様な時期は過ぎていた。もう5年目。色んな危機はあったが、いまではほとんど家族の様に信頼し合っているのだ。
 友人からのメールに返信を打っていると、お腹がぎゅっとなった。最近たるんできた腹に手をあて、無造作に立ち上がるとゆっくり伸びをする。お腹がすいたな。だが冷蔵庫を覗いても何も入っていなかった。母親からの毎回変わらぬ中身の贈り物は食べ飽きて、あと一ヶ月は手付かずのままだろう。何か買いに行かなければ。結衣はテーブルの上の鍵を取ると、髪を手ぐしで少し直し、アパートの部屋を出た。
 古びた自転車。二度も盗難に遭いこれで三台目だ。友人からタダで譲ってもらったのだが、錆だらけのうえタイヤの空気も抜けていて、直すのに四千円かかってしまった。
 まったくこの辺は物騒だ。早く引っ越したいのだが、新しいバイトを探すのも面倒で、何だかんだで三年も居ついている。自転車を走らせ結衣はコンビニに向かった。自炊をしようと思ったことはあるが、いつもバイトの帰りが夜遅く、近所のスーパーはすでに閉まっているので諦めた。第一疲れて帰ってきたあと料理なんかする気になれないのだ。
 自分の茶色く染めた髪が伸びきっている姿が、コンビニのガラスドアに反射して映った。それを見て結衣は眉をしかめた。美容院にも行かなきゃいけなかったのだ、忘れていた。
 店内に入ると、ほとんど金髪に近い髪をいじりながら、棚にもたれ掛かっていた男性店員が結衣に一瞥をくれ、だるそうにいらっしゃいませーと言った。もたれ掛かった姿勢はそのままだ。
 カゴをとると無造作にパンとおにぎりを放り込む。切らしていた生理用品も入れた。雑誌コーナーの前を通ると、結衣の好きな男性アイドルが表紙になっているのを見つけた。それもカゴの中に放り込んだ。中年の男が立ち読みをしていて、そばを通るとなめ回すようにジロジロ見られたので気持ちが悪かった。結衣がカゴに入れた同じ雑誌のグラビアアイドルのページを無表情な顔で眺めている。何時間いるのだろう。この種の人間は、やる事もなくウダウダと夜遅くまで何時間でもコンビニにい続けるのだ。見れば分かる。こんな男がベタベタ触った雑誌なんか買いたくないのに。
 レジを済ませると、結衣は店を出た。
 風が冷たい。袋を自転車のカゴの中に入れた。ふと空を見上げる。星ひとつ出ていない空。ジーンズのポケットからおもむろに煙草とりを出すと、ライターで火をつけた。
 自転車の横にしゃがみこんで、欠伸を押し殺しながら人っ子ひとり通らなくなった路上を眺めた。
 煙を吸って吐く。吸って吐く。
 スーハー。
 あと何年こんな生活が続くのだろう。だけど実家に帰るのはごめんだ。
 スーハー。
 不意に声をかけられた。
「中川結衣さんですよね」
気配すらしなかったので、結衣は驚いて声のする方向へ振り返った。
 長身でやせた若い男性。見た事がなかった。切れ長の目と固く結ばれた一直線な唇。綺麗な顔立ちだったが、陰鬱な表情と神経質そうにゆがんだ眉頭が若さを完全に打ち消して、どこか病的であった。
「え? なんですか。あ、はい。中川ですけど……」
結衣は立ち上がると、オドオドしながら男を眺める。男の雰囲気があまりにも険しかったので、結衣はしだいに表情を強張らせていった。
 男はまったくの無言でしばらく結衣を眺めていた後、胸ポケットを探ると何か携帯のようなものを取り出し、結衣に少し待っていて欲しいというポーズをみせ、コンビニの角の方へ消えた。
 このまま帰ってしまおうか。誰なのだろう。だがその場をまったく動く事が出来なかった。
 ただならぬ事態。そう直感した。
 逃げなくては。逃げる? 
 何で?だが失笑さえ浮かばない。
 自転車に手を伸ばそうとしても、体をまったく動かす事が出来なかった。自分の意思と反して恐怖で体が硬直し、ガタガタ震えだす。意味が分からない。なぜ怯える必要があるのか。混乱していた。
 数分たっただろうか、男が角のほうから現れ結衣を確認するとゆっくりと近づいてくるのが見えた。視界がゆれる。男が二重に見える。さっきまであんなに険しかった男の顔に笑みが浮かんでいるのが見えた。
 意識が遠のく。
 逃げなきゃ。逃げなきゃ。
 結衣はうわごとの様につぶやいていた。男がどんどん近づいてくる。
 結衣は意識を失った。
 
 真っ白で丸い物体。
 いつの間にか私は生まれて、いつの間にか私は死んでいく。
かすかに残した私の存在したという形跡も誰かの気まぐれで消されてしまうのだろう。
真っ白で丸い物体はよくみると半分透けていて、中を覗くと蒼い空と海が見える。
幸せそうに笑う死んだはずのあの人の顔が見える。何処までも続く砂浜の向こうに一本の長い道が通っていて、その終わる事のない道の上を一台の車が走っている。
その車は永遠に走り続ける事が出来る。たまにおいしいスープを出す店や、綺麗な絵画の飾られた美術館がある。
車はその一直線の道の上を永遠に走り続けるのだ。
二人で。

 結衣は目を覚ました。
 ここはどこだろう? ひどく体が痛む。まっくらで何も見えない。違う。目隠し? 結衣は顔をまさぐると何か布のようなものが目の周辺に巻かれているのを感じた。おそるおそるゆっくりとそれをとる。
 結衣は息を呑んだ。だだっ広い何もない場所。白い床の延々と四方に広がっていて、それ以外に見えるものは……。一瞬にして体が硬直するのを感じた。あの男がこちらのほうをニヤニヤしながら煙草片手に眺めているのが見えたからだ。男はあごを上向きにして、煙草を一度ふかすとゆっくりと結衣の元へ近づいてきた。革靴のコツコツいう音がやたら非現実的な色合いを持って一帯に響いた。距離感さえまったくつかめない。結衣は今まで生きてきてこんな光景を見た事がなかった。四方八方白い床が続く以外にはまったく何も見えないのだ。
「ここはどこなの? 一体あなたはだれ?」
結衣はやっとの事で問いかけた。声は反響するものの何もない空間のなかで、乾いて聞こえた。男は座り込んで身動きひとつ出来ないでいる結衣を、あざけるような目で見下ろした。
 そしてまた煙草をふかす。
 吸って吐く。
 吸って吐く。
 スーハー。
「俺が死んだのは三年前だ」
独り言のように男が口を開いた。どこか遠くの方を眺めていたが、やがて青白い顔がゆっくりこちらを向く。目はうつろで淀んでいた。結衣は空を見上げた。だが光の渦で目がくらみ何も見えない。何を言っているのだろう。とにかくここから出たかった。不安でたまらない。やたら広い空間というのは人をこんなに不安にさせるものなのか。
 男の言葉を無視しすると、落ち着かない態度で結衣は尋ねた。
「帰りたい。ここにいるのはいや」
後半は涙声で詰まり、震えて途切れた。男はまったく聞いてないようすで、煙草をふかしうつろな目を細める。
「どうして私はここにいるの?」
風さえ吹かない。無音状態。無色。ポトポトと涙が零れ落ちる。やがて立ち上がりフラフラと歩き出した。
 ここから出たい。ここから出して。
男のせせら笑うような声が背後から聞こえた。
「お嬢さんどちらへ行かれるのですか? そっちには何もありませんよ」
後ろを振り返ると、ニヤニヤした顔でさも珍しいものを見るような目つきで結衣を眺めているのが見えた。男は後からついてくる。そして新しい煙草を左胸のポケットから取り出し、ライターに火をつけた。
 スーハー。
 コツコツ……。コツコツ。
 男の革靴の音だけが当り一帯になり響く。一方結衣は裸足だった。足の裏に冷たく硬い白い地面を感じる。
「うちの近所に大きな精神科病棟が建っていて、そこの前を通ると窓からよく幽霊みたいな顔をしたやつらどもがこっちをうつろな目で眺めていたな。その病棟からある日ひとりの男が飛び降り自殺をしたんだ」
結衣は男を振り返った。
「俺はちょうどそれを目撃した」
コツコツと男が近づいてくる。スーツの紺と空間の白さが、はっきりとしたコントラストをみせていた。
 間近で見る男の瞳は灰色で、深い悲しみを湛えているようだった。すべてを見透かされそうな目。結衣は歩みを止めて男と向かいあう。手の届きそうな距離まで近づいてきたあと、お互いが見つめあうような形になった。
 男が口を開く。
「朝早くその近くを散歩していたんだが、まさに落ちる瞬間をみた。それが何なのか分かるのに時間を要したよ。
 俺は一目散に駆け寄って、落ちたそれを至近距離から見たんだが。怖いとはぜんぜん思わなかった
 むしろワクワクしいたな。頭が上のほうから真っ二つに斧で叩かれたように割れていた」
さも愉快そうな顔で男は話す。笑うとまっすぐに結ばれた唇が小刻みに揺れた。
「もちろん死んでたさ。しばらく観察してたんだけど、人が来たんで俺はそそくさと退散した。出来る事ならあれを写真におさめたかったな」
そこまで言うと、後ろを振り返りダルそうに煙草を放り投げる。前を向いた男の顔からは愉快そうな表情は消えていた。蔑むような視線だった。冷たい目で見下され、結衣はまた体が硬直するのを感じた。
「現実に立ち向かう精神力のないものは、自分の周りに妄想の世界を作り上げる。その妄想を現実だと信じ込んで死ぬまでその中で生き続けるんだ」
クラクラと意識が揺らぐのを感じた。地面に吸い込まれそうになり結衣は膝を突く。
「永遠にね」
男がしゃがみこみ顔を覗き込む気配を感じた。ひどく吐き気がする。グルグルと色んなものが回転して、上も下も、右も左も認識する能力をなく始めた。自分の体が真っ暗な穴の中へすっぽりと落ちていく。ズキズキ頭が痛む。
 遠のく意識の中で、ささやく声を聞いた。
「お嬢さん。あんたはもう死んでいるよ」
 意識のかく乱。
 
大家は戸を叩いた。異臭がするとの連絡で部屋を訪れたのだが、鍵はかかっていて中に誰かいる気配もしない。新聞がだいぶたまっているのを見ても、長い間不在であることはあきらかだった。
 近隣住民の話によると、一週間近くこの部屋の明かりは夜もつかないままだそうだ。そして三日ほど前になると、この部屋から異臭がし始める。耐えられなくなり、隣に住む女性は大家に連絡し部屋を見てもらうように頼んだ。
 妙な胸騒ぎを覚え大家はもう一度ドアを叩いた。何度呼んでも返事はない。不在であるのを確認し終わると、合鍵を使ってドアを開ける。中に入ると異臭は強くなり、発生源が間違いなくこの部屋であることを示していた。
 鼻を押さえ大家は部屋の明かりを付ける。
「中川さん」
ワンルームの部屋の中央で、一人の女性が横たわるのが見えた。遠くからも死んでいるのはあきらかだった。肌がどす黒く変色しているのが見える。大家は悪い予感が的中したのを知り、深い溜息をついた。
 遺体はこの部屋にすむ28歳の女性で、姿が見えなくなった一週間前にこの部屋で亡くなったとみられる。数ヶ月前に仕事をやめ一日中家にいることが多かったそうだ。たまに近所のコンビニに出かける彼女の姿を同じアパートの住民は見ているが、うつむき加減で歩きあいさつなどを交わすことはなかったという。警察の調べで、この女性は半年まえに恋人の男性を事故でなくしていた。ふさぎ始めたのはそれからだ。最初のうちは友人らしき人物が毎日部屋を訪れるのを目撃されているが、しだいに部屋を開けなくなった。通院していた病院にもやがて行かなくなり、ここ数日の彼女の生活を知る人はいない。腐敗が進行し始めていたが遺体の損傷は少なく、眠るように穏やかな顔だったという。
 死因は今のところ分かっていない。身内だけの葬儀が翌日ひっそりと執り行われた。葬儀が終わり、警察が部屋の中を捜査していると一枚のフロッピーディスクを発見することとなる。
 タイトルはこう書かれていた。
「死刑執行」
 警察官になって3年目の片桐正人は、今年から刑事課に配属された。昔から臆病で泣き虫であった彼がこの仕事に就いたことを、家族の誰もが驚きそして喜んだという。すぐに弱音を吐いてやめてしまうのではないか。父親は実家に帰るたびに心配そうに仕事について訪ねてきた。だが警察官の仕事も板につき、この課に配属されてからは忙しいが、幼いころからあこがれていた刑事課の仕事につくことができて毎日が充実していた。
「おい、片桐。例の若い女性がなくなった事件な。検死の結果からは不審なものは何も見つかっていないそうだ。部屋をくまなく探ったが例のフロッピーディスク以外は何も出ていない。……お前最近寝てないんじゃないか? 目の下にくまが出来てるぞ」
がっちりとした厳つい体つきからは想像もつかない人懐っこい笑みを浮かべて、芝田は言った。
 9割が男でしめられる刑事課の室内は、乱雑で始終タバコのにおいで立ち込めている。昼休みは大抵の者が近くにある中華料理屋に繰り出したが、片桐は近所のコンビニで買った弁当を課内で食べていた。時間が惜しいわけではないが、15分ほどで済んでしまう簡単な昼食だ。食べることに興味がないのだろうか。ハードで不規則な仕事で夜も食べないことが多い。
 芝田は結婚したばかりで妻の手作り弁当を、こそこそと恥ずかしそうに口に入れていた。最近はそれのおこぼれをもらい味を評価するのが恒例となっている。
「寝てはいるんだけど、熟睡できないっていうか、目が覚めることが多い。久しぶりにおきた殺人事件だからな。ここ最近は気が休まることがないんだ」
味付けがちょうどいい塩梅の卵焼きだった。最初の頃は、味がなかったり濃かったりマチマチであった料理の腕も上がってきている。二十歳そこそこらしいが、毎朝早起きして、夫の為に弁当をこしらえる健気な姿を思い浮かべて片桐はうらやましく思った。
 日頃から恋人が欲しいと切望してはいたが、この忙しさでは出会うチャンスも暇もない。
「まだ殺しときまったわけじゃない。寝ないと体が持たないぞ。若いから持ってるようなものだ。ちゃんと食べてるのか? 早く嫁さん作れ」
毎度おなじみの台詞でしめると芝田は散らかったデスクのノートパソコンを開いた。
 そしてしばらくすると画面をしかめっ面で眺め始めた。
「例のフロッピーか?」
片桐は最後の一口を放り込むと、イスを近づけ画面を覗き込んだ。
「彼女は小説家でも目指してたのかね。若い女が書いたにしてはやたら堅苦しい文章だよな」
芝田はそう言うとしかめっつらのまましばらく何事か思案していたが、やがてもう一度口を開いた。食べたばかりの焼き魚の匂いなのか、生臭い口臭がする。パソコンを前に顔をそろえて見ていたので、毛穴が分かるほどの距離に向かいあってしまった。
「事故でなくなった恋人の浩二さんは、事故当日母親と父親そして姪の由香ちゃん4人で車に乗っている」
芝田の脂っこい顔から離れると片桐は答えた。
「うーん。この中に出てくるゆかていうのはもしかして、恋人の姪だった由香ちゃん?」
「おそらくそうだろう。文中に出てくる交通事故の描写は恋人である浩二さんの事故を思い出して書いたのかもしれない」
芝田はズボンの後ろポケットからタバコを一本取り出すと、ライターで火をつけた。そしてゆっくり伸びをして立ち上がり、タバコ片手に腰に手をあてむっつりと天井を眺める。
「その事故も不可解な点が浮かび上がったので、この件をきっかけに再捜査が始まっている。恋人である山下浩二さんがハンドルを握っていたんだが、検死の結果多量の睡眠薬が検出されていた。
 浩二さんは不眠症で通院歴があったが、運転前に飲むには不自然に多すぎる量だったそうだ。そして彼には保険金がかけられていた。受取人は、恋人である中川結衣。なぜその事をスルーしたんだと。その事故を扱った捜査班は、今上からごうごうたる非難を浴びてるらしいがな」
そう言うと芝田は窓辺へと向かった。
 片桐は、空いた芝田のデスクのイスに移ると、文書ファイルをクリックした。
 そしてそれをもう一度眺める。
「死刑執行」
重々しいタイトルだ。
 最後の更新日付は死亡推定日と同じになっている。死ぬ直前までこれを書いていたと見られ、被害者のパソコンは電源が入ったままだったそうだ。マウスを片手にスクロールさせ、書き出しの部分を読み始める。
「目が覚めたとき私は白い壁の中にいた」
死んだ女性の部屋も白く塗り替えられていたという。
振り返ると芝田が窓の外を見ながらぼんやりとタバコを吸っていた。時計を見ると昼休みの終わりまであと二十分ある。片桐はパソコンに身を寄せると手記を読み始めた。

        *

 目覚めたとき、私は白い壁の中にいた。
 ただならぬ様子にハッと飛び起き、あたりを見回したが、暗い場所からいきなり光の渦中へ投げ出されたみたいに、
目がくらんで何も見えなかった。真っ白い壁に囲まれた、それ以外、何もない部屋。 ただ呆然とするしかなかった。頭が朦朧として、ひどく痛んだ。 夢なのだろうかとぼんやり考えながら、いつもの癖で腰に手をやる。意外や意外、ポケットにはちゃんと煙草が入っていた。よく見ると格好がおかしい。自分のものではない、
 病院で着せられるような草臥(くたび)れた青いパジャマを身につけている。 ライターもあった。
煙草に火をつけ、改めて考えた。だが、何もわからなかった。ここはどこなのだろう? 昨日のことを思い出してみる。
昨日……。
変な気分だ。
名前も、家も、家族の顔も思い出せる。確かに記憶はある。が、そのすべてがどこか張りぼてめいていて、マネキンとジオラマで作りあげた人形劇のように、滑稽で、薄っぺらで、何もかもが他人ごとのようだ。
 要するに、私にとって過去はどうでもよかった。 そんなものに意味はない。なぜかしら、そう感じた。
 気がつくと、口の端に笑みを浮かべていた。自分の手首を見たからだ。 無数の縫い目を刻み込んだ傷痕が、幾筋も走る左手首。真新しい傷口には血が滲んでいた。 くだらない。一気に不愉快な気分になった。
  立ち上がり、壁をこぶしで何度も叩く。白い表面にひびが入って塗装が剥げ、やがてそれは赤く染まっていった。
  部屋で唯一のドアが開いた。
 白衣を着た老人がゆっくりと顔を出す。
「柏原さん、私は悲しいです」
そう言いながら彼は、眉ひとつ動かさず、無表情でのろのろと近づいてきた。
「いつものことだ」
私は答えた。ベッドすらない室内で胡坐をかき、煙草を片手に白衣の老人を見上げる。
「昨日、都内の高速道路で衝突事故が起き、実家から帰る途中だった四人家族が亡くなりました。かわいそうに、まだ4歳の女の子もいたのです。新聞にかわいい写真が掲載されていて、私は胸が詰まりましたよ」
無表情のまま老人はそういうと、私の目の前で立ち止まり、首をかしげる。
「いつものことだな」
老人はあいかわらず眉ひとつ動かさない。マネキンみたいな顔だと思った。 実際、蝋で出来ているのだろう。
 そう考えると妙におかしくて笑みがこぼれた。
「そうですね。では行きましょうか」
私はうなずくと、煙草を床に押しつけて、立ち上がった。
 電気椅子、ロープ、薬品。
死刑囚からは死臭が漂っている。そして、明るい幸せな家族には死相が見えるのだ。
 
 私は誰かの体内の一部だと思った。ミトコンドリアかリボソームかゴルジ体か。いずれにせよ、そのどれかであるに違いない。地球は核だ。宇宙は細胞小器官。 暗黒物質暗黒物質、ダークマターよ。死を葬ってくれ。生を飲み込んで存在無限の闇の中へ私を葬ってくれ。そこで私は永遠に存在していくのだ。
 未来から過去へと吸収され、永劫回帰の空の中で生き続ける。 その空の下で、煙草をふかそう。
  死刑囚は天井を見上げる。機械的な生活の中では思想も哲学も何もなかった。 生物としての本能だけが彼を生かし、死を待つだけの日常は、薄汚れていて救いもなく、ただ同じ色を塗りつけては落とし塗りつけては落とし、無意味に時間は流れていくのであった。 けれども罪は流れない。そもそも罪など存在しない。
  我思う、ゆえに我あり。色即是空。 どちらの思想も彼を救わない。
 彼を救うのはたったひとつの金属片だけだ。 鍵がほしい。鍵さえあればここから出られるのに。
 
 私はふたたび白い壁の中にいた。 そしてまた、何ごとかと飛び起きてはあたりを見回すのだ。 手首には傷がひとつ増えている。変わったことといえばそれくらいで、私はまた煙草に火をつける。老人は滑稽なその一部始終を観察し、高笑いする。不愉快だ。くだらない。 壁をこぶしで殴りつける。その繰り返し。ただひたすらの繰り返し。 左手首の傷だけが増えていく。いつか手首は腐るだろう。 腐ったら、もう片方の手を傷めつけるのだ。
その繰り返し。
死刑囚は時折笑う。小さな虫が列をなして壁を這うのをみたときだ。一匹一匹、虫を押しつぶし、黒い汁が親指を汚すのを眺める。 そんなときにふと過去を思い出す。幼少時代の懐かしい風景を思い出す。もっとも思い出すだけで、何の感情も彼の胸をよぎりはしないが。
「柏原さん。一体いつになったらあのうるさい道路工事は終わるのでしょう。まったくドンカンドンカン、集中して本も読めない」
老人はドアから顔を出すと、無表情でそう言う。 私はうつろな目で煙草を床に押しつぶし、立ち上がる。
「いつものことだ」
四方の白い壁から真っ赤な血が滴り落ち、くっきりとしたコントラストを描く。窓さえないのに部屋には光が充ちていた。
 私の千切れかけた左手首が歩くたびにブラブラゆれる。 赤と白のコントラスト。眩暈がする。
 気づいたときにはもうトラックは真正面だった。 ハンドルを切る間もなく、今まで聞いたことがないような爆音と衝で、一瞬にして体が砕けた。 永遠とも思われる時間ののち、彼はかすかな吐息を最後に死を迎える。
 そして、死刑囚の最後の日も、ある日突然訪れるのだ。十字架と聖書の宣教師の目の前で、恐怖と諦めの入り混じったどす黒い顔が、醜くゆがんでは表情を失くした。 それから、永遠とも思われる長いらせん状の階段を歩き、大きなドアの前で立ち止まると、彼はうつむき、祈りを捧げる。
 光の点滅。
 喪服。棺おけ。まったくもってすばらしい夜明けだ。
「まま、ゆかちゃんはてんごくへ行ったんだよね。てんごくってどこにあるの? かな手紙出したい」
幼い女の子が道の途中で立ち止まり、母親の悲しそうな顔を見上げながらいった。
 母親は返事に困った様子でしばし躊躇したあと、女の子の頭をなでながら何ごとかささやいたが、私にはよく聞こえなかった。
 近くの道路工事がうるさ過ぎるからだ。
 
 死はいつもあの道の角からやってきて、私の横を通り過ぎていく。 すれ違いざまに触れようと手を伸ばしても、
けっしてつかまえることは出来ない。 それはいつもスルリとすり抜けていってしまう。そんなものだ。
だから私は一輪の花と一編の詩を彼らに捧げて、すぐに忘れることにしている。
 見なかったことにしよう。
 誰かが耳元でささやいた気がした。
 そう、見なかったことにしよう。
また明日もあの道の角からやってくる。そうしてそれは私のすぐ横をヒタヒタと歩きながら、背後へと消え去っていくのだ。

死刑執行。

ズドン。バタン。
ギー。
ガシャン。
見なかったことにしよう。
ギー。
ガシャン。
私の消滅。
ギー。
ガシャン。

 終焉。
     
           *
 
 いつのまに眠ったのだろう。片桐はデスクの上に突っ伏して眠り込んでいた。
 顔を上げると目をこすり時計を見上げる。一時間も眠りについていたようだ。昼休みは終わり、何人かの同僚がせわしく背後を行ったりきたりしている。背中には毛布が掛けられていた。
 芝田のやつ。
 同僚の配慮なのだろうか。片桐が起きたのを確認すると、課内で唯一の女性である花田がニコニコとこちらの様子を伺っているのが見えた。芝田はもう室内にはいなかった。今度コーヒーでもおごってやらなくてはな。片桐はゆっくりと立ち上がると伸びをし、肩をまわすと聞き込み捜査へ行くため刑事課の室内を出た。

「真っ白で丸い物体?」
若い医師はイスを回転させると患者と向き合い聞き返した。
「ええ……」
おびえる様な声で切れ長の目をシバシバさせながら男がつぶやいた。
「真っ白い色をした丸い物体が見えたんです」
「それがあなたの元へ向かってきたんですね」
医師はそういうとカルテに何事か書き込みながら、続けた。
「その物体を見てあなたはどうなさったんですか? びっくりしたでしょう」
「びっくりはしました。ですけど、なぜかその丸いものがとてもきれいだったので、
うれしくなったんです。すごく、手に触れてみたいと思いました」
「触ってみたのですか?」
男は何か返事に困った様子で、オズオズと医師を見上げたあとこう言った。
「いいえ。でも、近くで……見てみたんです。白い球体を。そうしたら。
本当にきれいな蒼い空が見えました」
「蒼い空? 白い球体の中に見えたんですか?」
「はい。近くでみるとちょっと透けて向こう側が見えるんですね。でもなぜか向こう側は蒼い空なんです」
男は何か大切な宝物のことについて語るように、うれしそうな顔で医師をみやると、手を落ちつかなそうにひざの上で弄びはじめた。医師はカルテを片手にそれを観察したあと、思い出したように、机に向かって何かを記入し始める。
「薬は今までのままですからね」
男はとてもうれしかった。真っ白で丸い物体のことを思い出すと、わくわくした気持ちを抑えられなくなるのだ。

 私がこの病院に入院したのは一年前からだ。母親に連れられ少し見てもらうだけだと言われ近所の心療内科に診察したのだが、なぜかその日のうちに大きな大学病院に連れていかれ、翌日には病名も聞かされないままここへ入院することとなってしまった。
 私は会社内でひどいいじめにあっていた。入社直後からそれは始まった。何がきっかけなのかは分からない。最初は私に聞こえるように悪口を言っているだけだったが、しだいにエスカレートし、すれ違うたびに「キモイ」「デブ」「死ね」などのひどい言葉をかけられるようになった。味方は一人もおらず。上司もそれに加担していた。
 母を心配させるのが嫌だったので、私は毎朝死ぬ思いで会社に通った。一日も休むことはなかった。誰にも相談せず一人で必死に耐えた。無視していればやがて収まるかもしれないと考えたからだ。
 だがいじめが収まることはなく。会社の人間すべてが私を陥れる為にひどい悪巧みを始めた。
 やめるしかない。そう思ったときにはもう遅く、私の心はめちゃくちゃになっていて、ある日突然それが爆発する。大声で叫んで暴れた。会社のものを壊し手が血だらけになるまで、いろんなものを殴った。
 警察を呼ばれその日のうちに解雇になったが、誰一人私の言い分を信じるものはおらず精神不安定ということで自宅で療養させられることになってしまった。
 もう終わった。すべてが終わったと思い死ぬことしか頭になくなってしまった。
 そんな時だ。真っ白で丸いそれを見始めたのは。
 男は診察室を出ると、病棟へと戻るためゆっくりペタペタと歩き出した。鉄の網をかけられた窓から、白い空が見える。
 細身で端正な顔が苦痛そうに歪んだ。
 ……何が苦しいのだろう。一度でもその正体をみたことがあるのだろうか。苦しみはいつも仮面をかぶり違うものに成りすまし、私を陥れるためにヒタヒタと忍び寄るのだ。
 私は幼いころから父親の暴力を受けていた。中には性的なものも含まれていた。それはいつも隠れた儀式のように行われ父に殴られ蹴られるたび必死に助けを呼んだがだれひとり私の声に気がつくものはおらず、その暴力は小学校を上がるまで続いた。なぜ父が私に暴力を振るうのをやめたのかは分からない。
 おそらく理由なんてないのだろう。私がここに存在することにも理由はない。ただ太陽が気まぐれに輝いたから私は生まれたのだ。
 やたら目が眩み外のものがまぶしく映った。だが目を逸らすことなくそれを直視する。現実感が薄まり見慣れたはずの景色がとても奇怪なもののように見え始める。
 嘔吐。気がついたら私はその場で吐いていた。黄色い胃液がのどを通るたびに、焼きつくような痛みを感じる。吐いても吐いても胃は収縮しその運動をやめようとしない。苦しさからその場に倒れこみ。何度も吐いた。なぜだか周りに人の姿はなく、看護師をよぼうとしても声がまったくでなかった。
 真っ白で丸い物体がゆっくりと私の元へフワフワと近づいてくるのが見えた。私は横たわり仰向けの状態でそれを眺めた。一瞬で吐き気がやむのを感じる。
 白い球体は私を覗き込むように真上で制止する。私にはそれがやさしく語りかけるように感じた。手を伸ばすと、真っ白な丸い物体は逃げる様子もなく、宙に浮いたままフワフワとその場を動こうとしない。私は満面の笑みでそれを掴もうとした。そうすると逃げるように白い球体はゆっくりと窓の方へ動き始めた。
 逃げるのか。
 体を起き上がらせると白い球体を追い窓へ向かう。白い球体はフワフワと窓を通り抜け、窓の外側で停止した。私にはそれがこっちにおいでとやさしく語りかけているように感じた。窓の手すりに手をかける。
 そうすると不思議なことに、私の体は窓をすり抜け鉄の網の向こう側へ半分体を乗り出すような形になった。真っ白で丸い物体。私は再びそれをつかもうと手を伸ばした。
誰かが指をならす。
自分の体が宙に投げ出されるのを感じた。
急降下。
希望。
蒼い空。
白い雲。
手を伸ばそうとするから消えてしまうのだ。望まなければいいのに。最初から。
転落死。
全身打撲、内臓破裂。
数分間の虫の息の後、私は冷たいコンクリートの上で心臓の音を止めた。

 綺麗な顔立ちをしていた。長身で細身のその男性は結衣と目があうと、口をまっすぐに結び少し微笑んだような顔をした。すぐ目を逸らしてしまったので、気のせいだったのか、本当に微笑んだのか曖昧になった。もう一度顔を上げて男性の顔を確認しようとしたが、もうすれ違い背後に消えてしまったあと。すぐに振り返ったがその姿を見つけることはできない。
 どこかで見たことがあるような気がしたのだが、思い過ごしだろうか。
 隣で浩二が不思議そうな顔で、結衣の顔を覗き込む。
「知り合い?」
「ううん、たぶん人違い」
そう言うとつないだ手をもう一度強く握り締めた。結衣は幸せをかみ締めていた。静かにお腹の中にある命を愛おしく手の平で撫で付けると、浩二が隣で微笑むのを感じた。
 二人はゆっくり人ごみの中へ歩みを向ける。そして徐々に見えなくなりやがて雑踏の中に飲み込まれていった。

「おい片桐何を見てるんだ」
芝田が駆け寄り声をかけてきた。
「いや、最近空を見てないなと思って。綺麗だろ? 今日の空は特段綺麗だ」
片桐がまぶしそうに手をかざし空を見上げて言った。芝田は不思議そうにその様子を眺め、やがて一緒に空を見上げる。
 雲ひとつない空に飛行機雲が見えた。
 芝田が言う。
「被害者の女性は自殺だと断定されたそうだ。死後だいぶたっていたから時間がかかったが検死がそう断定した。彼女はリストカットの常習者だったことからも推測できるだろう」
「俺は聞いてないぞ。確かか」
片桐はびっくりして芝田を見やった。
「ああ今連絡があった。恋人のほうの事件はまだ捜査中だ。まだ終わってない」
「そうだな」
「なんだ。その元気のない声は。ちゃんと食べないからだ。お前の力の見せ所が
まだ残っているということだぞ」
ふいに背中を思い切りたたかれ、片桐は前のめりになりバランスを崩し膝をついた。
「ひ弱だな」
片桐は苦笑しながらよろよろと立ち上がり、膝を叩いて砂を落とす。
「そろそろいくぞー」
芝田はあくびをかみ殺しながら、宙いっぱいに腕を広げ伸びをしながら言った。
 片桐はうなずくと、飛行機雲が途切れ途切れに広がっていくのを最後に眺め、車に乗り込みエンジンをかけた。
 そして男くさい匂いで充満した我がアジトへと戻っていった。
 
 真っ白で丸い物体。
 いつの間にか私は生まれて、いつの間にか私は死んでいった。
 かすかに残した私の存在したという形跡も
 誰かの気まぐれで消されてしまうのだろう。

 浩二は朦朧としていた。高速道路上の視界は、瞬きするたびにチカチカと綺麗に光った。
 後ろの席で由香が新しく幼稚園で習ったと言う歌を口ずさんでいた。隣では父がうつらうつらと窓を眺めている。
 別れを切り出した後の結衣は意外に冷静だった。あいつのことだからもっと泣いて騒いで面倒なことになるのではないかと覚悟していたのだが、
 結衣なりにだいぶ前から別れを察知し予感していたのかもしれない。そういうことにはやたら敏感な女だった。
 バックミラー越しに後ろの席を見てみると、由香が真っ白い風船の紐を握り締め満面の笑みで母と歌を口ずさんでいるのが見える。
 昨晩はよく寝たはずなのに、猛烈に眠い。由香の歌が途切れ途切れに聞こえ始めた頃には、もう遅かった。
 朦朧とする中でゆらゆらと揺らぎ始める景色が、色を失い始める。
 綺麗だ。
 薄れいく意識の中で、浩二は呑気にもそうつぶやいた。

 
 故意ではなかった。
 いや入れたのは確かだけど、ほんのいたずらのつもりだった。

 意識が遠のく。

 まさかあんなことになるなんて思ってなかったんだよ。死刑死刑死刑死刑。

 父が異変に気づき、声をかけ肩を叩いた。後ろでただならぬ事態に気づいた母が悲鳴を上げ始める。父がハンドルを取ろうと必死で私の前に出て慌てふためいているのが見えた。
 俺は生まれて初めて自分の死を予感するのを感じた。

 死刑。
 
 真っ白い風船。
 クラクション。悲鳴。破裂音。
 
 死刑執行。
 
 ズドン。バタン。
 ギー。
 ガシャン。
 
 許して。
 
 ギー。
 ガシャン。
 
 私の消滅。
 
 ギー。
 ガシャン。

 腐りいく死体を横目に男はタバコを吸っていた。
 スーハー。
 愚かだ。まったくもって人は愚かだ。せせら笑いながら、蔑むように死体を眺め目を細める。
 人が死んだらどこへ行くかなんて知らない。俺はどこへも行かなくてもいい。こうやって気楽にタバコをふかして、醜悪や劣化を横目に鬱々と世の中について思案するのが好きだ。
 女は悪臭を放っていた。人は自らを装うことをやめたらこんなもんだ。実態は汚くてグロテスクな存在なんだよ。己の身分を自覚しろ。
 男は死体につばを吐きかけると、皮肉な態度で十字を切った。口の端には笑みが浮かび、うつろで切れ長の目を細める。祈ろうではないか。
 アーメン
 男はそうつぶやくと静かに消滅した。

 アーメン
01 2018

起きてよう

何故か、キッカケも理由なしに
身体が重くて精神的にもシンドイ。

寝たら余計に怠くなった。

起きてよう。